あの頃…
「あ、ちょっと黒崎先生。いったいなんですか」

その声は聞こえなかったことにした

「しるふ」

「ん」

「えぐいわよ、相変わらず」

「何が?」

「その、鈍感さが」

「だから、何が」

海斗に敵う相手なんてそうそういやしない

日本一の総合病院跡取り息子で、187cmの長身、端正な顔立ちの

見えにくい優しさを持つ海斗にかなう相手などそうはいない

でも問題はそこじゃない

この真っ白い花が、無邪気な瞳が、少しもその鈍感さと鈍さを自覚しないことだ

「何度も言うけど、しるふはもう少し自覚しなよ、その美貌」

あの黒崎先生だって落ちてるんだから

「私より神宮寺医局長の方が美人だよ」

「あー、もう!あんたホントに男心がわかってないわね」

いい?

「男ってのは、癒しを求めるの。隣にいて心穏やかになれる人に惹かれるのよ。医局長は確かに美人よ?でもしるふのそのほんわかした雰囲気と笑顔の方が数倍市場価値高いのよ」

だから、少しは警戒心もちなさーい

「でも今まで告白されたとか、デートに誘われたとかないんだけど」

危機感のないしるふに、当り前じゃない

黒崎先生が叩き落としてるものと耳元で叫びたいと心底思った
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