あの頃…
ふわりと香るカモミールの香り

15㎝ほど下で伏せられたブラウンの瞳が

「立花」

呼ばれて見上げてくる

その瞳が涙にぬれることは、傷つき悲しげな色を灯すことは

どうしても許せないと思う

「さっきの患者、気をつけろよ」

「さっき?…ああ、え、でもただの風邪ですよ?ちょっと長引いているだけだと思いますけど」

「…お前のその鈍感さは今に始まったことじゃないし、今更どうこうできるものだとも思わないけど、」

無意識に深く息を吐く

パタンとカルテを閉じた音が思った以上に響いた

「頼むから、もう少し警戒心もてよ」

じゃないとこっちの身がもたない

そう言い置いて海斗は医局に続く階段を上っていく

そのたくましい背を視線で追いながら

「ただの患者だと思うんだけど」

だまに海斗って過保護なのよね

ま、それはそれだけ想われてるってことか

と対して深刻さを感じていない声でつぶやく

その言葉が聞こえていた海斗の同志・飯田莉彩は

「だからえぐいって言ってるのよ」

とつぶやかずにはいられなかった

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