あの頃…
ひらひらと舞い踊るそれは薄い水色の空によく映える

頬をなでる優しい風を感じながら見上げるのは淡いピンクの色のを満開にするそれ

「……ふ、しるふ」

「え!?…あ、黒崎先生、お疲れ様です」

遠くから聞こえていた声が元指導医のそれだと

呼ばれていたのが自分の名前だと認識するまでに時間がかかったのは

まだその関係に慣れていないから

「お前、大丈夫か。自分の名前わかってるか」

私服姿の海斗が少しあきれ交じりに見下ろしてくる

「いや、あの、えーっと大丈夫です。ちょっとぼーっとしてしました」

なんてうそ

だって、誰がそんな簡単にこの状況に慣れようか

ほんの少し前まで指導医で

毎日カルテで叩かれ、しごかれ、それでも食いついて

今だって就業中は何一つ変わっていないというのに

外に出た途端、何もなかったような顔をして、それが当たり前だと言わんばかりに

下の名前で呼んでくる

まだそのスピードに慣れなくて変わらず敬語を使っているしるふに何も言わないでくれるのはきっと海斗の優しさ

出来ることならあと数か月その問題には触れてほしくないと思っているしるふである
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