あの頃…
聞こえてくる声音は、とても心地よい

「しるふ」

一瞬震えた瞳

思い出すのは、そうその声の主だ

「黒崎先生」

振り返れば私服姿で真っ直ぐに射抜いてくる海斗がいる

ほっと息をついたのは無意識だ

「どうかされましたか、島田さん」

うちの医師が何か

海斗が立つ場所は、しるふと島田の間

しるふより半歩ほど前

「いや、その…」

「もう就業時間も終わっているので上司としてとやかく言うつもりは全くないんですが」

なんて事務的に響く海斗の声

見上げるのはその大きな背中

研修医時代に嫌というほど追いかけた、否

今だって遠い、追いかけるべき背中

「一個人として言わせていただきますね。非常に申し訳ないんですが、立花は予約済みなので」

他あたってください

きっとどんなに勢いよく飛びついたって揺らいだりしない背中

どんなことだっていつだってどこでだって受け止めてくれる

ああ、だから
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