あの頃…
「で、どこなんですか、黒崎先生の行きたいお店って」

「ああ、俺の部屋」

「え」

ぴたりと止まる足

「ああっと、えと、黒崎先生、あの、それは、ええと、どういう意味でしょうか」

しどろもどろってこのことを言うのか

「こないだ、懇意にしてる契約先から国産霜降り黒毛和牛が届いたって実家からもらったんだけど」

せっかくだからフルコースにしてやろうかと思ったんだけど

「あ、そういうことですか、じゃあ、お邪魔します」

初、黒崎先生宅

先ほどの困惑はどこへやら

嬉しそうに笑うしるふに、ふと気づかれないように嘆息した

ああ、でも、だから

しるふだったのだと

どこかで自分の声が告げた気がした
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