あの頃…
何も言わず睨み付ければ

「ここまで勝気な人初めてかな」

そういって楽しそうに笑う

「私もあなたみたいにふざけきった人、初めてよ」

出来ることなら一度もお会いせずに過ごしたかったわね

「本当面白い。でもどうやってこの状況から抜け出すの」

周りは戸田の友人ばかり

何人かいる女も面白がっているだけだ

さすがにこの状況は頂けない、そう少し冷静に店内を見回して思う

姉から伝授された護身術も対独り用だ

捕まれた腕を振りほどけても出口まではたどり着けそうにない

だからといってこのままおとなしくしているような女ではないのだけれど

そう思って履いてきた7センチのピンヒールをそっと浮かす

狙うは戸田の足の甲

思いっきりやればひるむくらいは効果があるはず

「人の部下に手を出さないでもらおうか」

浮かした足を振り下ろそうとして狙いを定めていたら

聞きなれた落ち着いた声が隣から聞こえた

視線を上げれば

「…黒崎先生」

長身の姿
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