あの頃…
「ありがとう、立花先生。なんかいろいろすっきりしました」

そういって笑顔を見せるのは、体調も回復し、今日退院を迎えた佐々木だ

見送りに来たしるふと海斗を出入り口のところで振り返り、ゆっくりと頭を下げる

その顔は穏やかで、ここに来た時の消えそうな印象はもうない

そんな彼女の心の中を表すかのように天気は雲一つない晴天

春風の穏やかな今日この頃である

「そうよ。あんな非道外道男捨てて正解よ。佐々木さんにはもっともっといい男が現れる。女は誰だって幸せになる権利を持ってるんだもん」

ね。

と得意げなしるふの笑顔に、笑顔を返しつつ頷く

「じゃあ。本当にありがとうございました」

去っていく背を見送るのは、ちょっとさびしく、でもとっても嬉しい

「あ、そうだ。黒崎先生。頑張ってくださいね」

振り返ってそう言い残すともう彼女は振り返らない

「…何を頑張るんですか、黒崎先生」

「さあ」

何か彼女に応援されるような会話をしただろうか

記憶を手繰る海斗はしるふの言葉に首をかしげる

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