あの頃…
しかも車内に問いかけが届くわけがなく、何より任務を終えた海斗がそんなもの気にするはずもなく

タクシーは走り去ってしまう

「…お礼、言ってない」

一応筋は通すのがしるふ流

にしてもなぜ海斗に送ってもらうことになったのか

そのいきさつが全く記憶にない

「てか、送るなら最後までちゃんと送ってくれたっていいじゃない」

階段を上がって部屋のドアを開けて

「…送ってもらったら困るか」

研修医になって数えるほどしか帰っていない部屋は引っ越しの香りが残り

生活で使うものが散乱している

これは、いくらなんでも視られたくない

少しは片づけよう

そう思って洗濯物を手に取ればふと叩かれた痛みが気にかかる

そっと手を乗せたそこは、でも絶妙に手加減してあることが

嫌でもわかってしまって

独り、そっと息をついた
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