あの頃…
まあ、黒崎病院にいる時間を考えれば確実に海斗の方が早く屋上を使っていたのだろう

「どうせならこのままお互いに鉢合わせなければ良かったですねー」

時に偶然とは残酷だ

「まったくだ」

ここが唯一じゃじゃ馬の指導医から解放される空間だというのに

会話が途切れて、風が優しく吹いて行く

時折海斗のページをめくる音がさらりと響く

「………いつも思うんだが」

流れていた沈黙を終わらせたのは、海斗の方だ

視線を投げれば、少し呆れたような海斗の瞳

「なんですか」

「…良い食いっぷりだよな」

大きなおにぎり×2を勢いよく頬張る女、さすがと言えよう

「食べたいもの食べてるんですもん、うれしいに決まってるじゃないですか」

「まあ、そうなんだが」

カツ丼や親子丼を最後までおいしそうに食べる姿が最近では見慣れてしまった

もはや医局の定番、といってもおかしくない気がする

「女の子が小食とか幻想ですからね」

食べたいものを我慢するなど、考えただけでストレスが溜まる

「別に小食だとは思ってないし、望んでない」

間違ってもそんなもの求めちゃいない
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