あの頃…
「セレブじゃないからな」

まず、そこを否定しよう

「でも、私と大して年が変わらないのに、その落ち着きようと自信のありようは頭に来ますけど」

そう言い切ったしるふを、人は見かけによらないのだと

陰で花と呼んでいる彼らに教えてやりたいと心底思いながら見つめていた



少し遅い昼休憩を終えた午後

ホットコールが鳴り響く

運ばれてきたのは、小学生の少女

下校途中に交通事故に巻き込まれたのだという

運ばれてきたときすでに心肺停止状態

さまざまな指示が飛び交う処置室は、けれど全員が無力感をかみしめながら

運ばれていく少女を見送るしかなかった


夜のしっとりとした空気の中、明かりのついた街を眺める

ゆっくりと息と吐いた息は、胸の重さを軽くしてはくれない

どうしたって救えなかったあの少女のことが頭から離れない

過ぎに違う患者が運び込まれて、切り替えなければ、と思っているのに

手は、頭は思う様に動いてはくれなかった

こんなんでは、ダメだ

そう思うのに、思うことしかできない自分がもどかしい
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