あの頃…
「いいえ!!ここで寝たら何か負けるような気がします!!」

派手な音を立てて椅子に座ってカルテを開くしるふに

「素直じゃないわね。相変わらず」

笑いながら言った言葉は届かない


「あんまり立花先生をいじめちゃだめよ。黒崎先生」

結局再び到来した睡魔には勝てず、机に突っ伏して眠り始めたしるふに毛布を掛けながら

ふらりと医局に戻ってパソコンを叩き始めた海斗を振り返る

「いじめてませんよ」

耳を澄まさなくてもしるふの寝息が聞こえる

「そう?だったらいいんだけど、うちの将来を担う大切な医者だもの」

大切にしなきゃね

机の上に置かれたカルテを手に取れば、読み易いしるふの文字が並んでいる

「そう思うなら他の人に指導医を任せればよかったと思いますよ」

キーボードを打つ海斗の視線は、一度だってパソコンから移らない

「でも、立花先生何も言ってこないから」

大丈夫なんでしょう

それがうれしい、という様に笑えば、一瞬海斗の視線が飛ぶ

「じゃじゃ馬の調教師なんてなるつもり有りませんよ」

少なくとも、今はまだ
< 5 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop