あの頃…
そろそろ帰ろうかと支度を済ませて席を立つ

静かな図書館を抜け、角を曲がると

「…お、疲れ様です」

前方から歩いてくる海斗の姿

「まだ居たのか」

昼過ぎに上がったと思っていたのに

「ちょっと用事があって」

海斗の瞳が一瞬細まったような気がした

「別にとやかく言うつもりはないが、休むときは休めよ」

最近詰め込んでるだろう

「そんなことないですよ」

と言いつつ海斗を真っ直ぐ見れないのは、後ろめたさがあるからか

探る瞳と流れる沈黙

「…お疲れ」

横を通り過ぎていく海斗の背を追って、見つめる

「…なんであんなに先に行っちゃうかな」

たった数年なのに、もう追い付けような気がするほど

その背が見えなくなるのではないかというほど

遠くに居るような気がするのは、生まれ持った天性だろうか
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