あの頃…
運ばれてきたのは30代くらいだろうか、女性

見るからにひどい状況で思わず眉を寄せる

「脈、振れません」

そう言ったのは誰だったろう

意識レベルも回復の兆しを見せない

看護師の血圧を読み上げる声が処置室に響く

「…っ。心肺停止です」

言葉とほぼ同時、機械音が響く

全員が一瞬、動きを止める

「心マ入ります」

近くに居たしるふが動いたのが最初

それから時間だけが過ぎていく

長いようで短い時間

海斗が一瞬、搬入用の出入り口に視線を注いだ

「立花」

声には制止が含まれていた

それくらいわかっている

でも、やめるわけにはいかなかった

だって、彼女の左手には、一つの輝きがあったから

「立花、40分たった」

「立花先生」

口を開いたのは、神宮寺

後に続く言葉は、きっと海斗と同じ
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