あの頃…
「立花先生は、まっすぐでいいのよ」

出逢ったころすでに諦めに囲まれていた海斗

いつ彼から辞表を提出されてもきっと驚かない

そう思えるほど海斗は、黒崎病院跡取りという立場に疲れていたように思う

そんな海斗にないものをしるふはたくさん持っている

きっと彼がなりたかった、目指したかった医者に

「今日は、ゆっくり休んで」

こくりと頷いたしるふを

それでも自分の勘は間違っていなかったのだと信じながら見つめる

きっと海斗ならしるふを医者として育て上げてくれる

そして、しるふなら海斗を医者にとどめてくれる

しるふでダメならもう海斗を自由にしてあげるべきなのかもしれない

そう思うほどに

「お疲れ様、立花先生」

「お疲れ様です」

しんと静まり返った院内を歩いてERに戻る

「医局長」

医局への階段を上る途中、呼ばれて視線を上げる

「どうしたの、黒崎先生」

見下ろしてくる海斗はすでに私服姿
< 57 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop