あの頃…
それからしるふが目を覚ましたのは一時間後のことで

目の前に広がったカルテと進んだ時計の針と背後に座る海斗の存在に一瞬血の気が失せた

でも起きたしるふに何を言うわけでもない海斗にほっと胸をなでおろした

一日に何度もたたかれていては、この研修医の時期に脳細胞がほとんど死滅するんじゃないかと

密かに恐れている

「立花、これ探しとけ」

丁度カルテの整理を終えるころ、海斗が一枚の紙切れを手渡してきた

「ご家族の説明か何かで使うんですか」

受け取りながら見上げると一瞬視線がかち合う

「今日中」

「はーい」

返されたのは質問の答えではなかった

でも、否定しないということは、肯定したということ

そこら辺の呼吸は数週間も隣に居ればわかってしまうものだ

とはいっても

「うん。くらい言ってくれてもいいと思うんだけどな」

手の中の紙切れと医局を出ていく海斗の背を見送りながらつぶやいた

「…て、黒崎先生どこ行くんですか!!」

追いかければ階段を下りるところで足を止めてくれる

「整形」

「だったら私も行きます!お供します!!」

いそいそとメモをポケットに押し込んだしるふに思わず口を開く

「帰ってきたらちゃんと探しますから!ほら行きますよ!!」

が、勢いよく遮られてついでに追い越される
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