あの頃…
「ここいいところですもんね」

から元気で笑いながら立ち上がる

「その何かあると独りで抱え込む癖、やめろ」

面倒だ

なんて言いながら優しさの含まれた口調に、動きを止める

「別に抱え込んでなんていません」

視線を逸らせば、痛いほど海斗の細められた瞳が向けられているのが分かる

泣きたいのを拳を握りしめてこらえる

「じゃあ、せめて独りで消える癖どうにかしろ」

探すのが面倒だ

勘と記憶を頼りになんとなく足を運んだここにしるふが居たことが驚きで

でも、思わず安堵の息をついた

「誰も探してくださいなんて頼んでません」

ああ、なんてかわいくない性格なのだろうか

「言ったろう、これでも指導医だ」

頼まれなくったって面倒はみる

ましてや

「あんな泣きそうな顔しておいて」

放っておけない自分がすごく腹立たしいような気がするが、この際それは無視しよう

「自分が許せないんです」

あの人を救えなかった自分が

「人を助けるために医者になったのに、一人の女の子すら守れない」

あの子は、これから母親のいない生活を送らなければならないのに
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