あの頃…
「褒め言葉って言うのはですね、相手が、言われてる相手が、あ、頑張ってよかったなって思わないと成立しないんです!!」

わかります!?

「だから褒めてるって」

「一方通行です!私、褒められてる気がしませんもん!!」

「時間」

腕時計を確認した海斗が寄りかかっていた机から離れ、背を向ける

「ああ!!そして置いていく!!」

結紮の練習台を机の隅に追いやって慌てて追いかければ

海斗は、階段の途中で待っていてくれた

それがうれしくて、でもそれ以上に驚きで

海斗を見上げた状態で動きを止める

「どうした」

問いかけてくる瞳は、いつだって濁りのない漆黒で

「いや、黒崎先生が待っててくれるなんて何か思惑があるのかなって」

素直に喜べないのは、いつもの調教のせいか

「気まぐれだ」

気にするな

「…ですよねー」

でも、海斗の歩調が少しだけ遅くなったのは気のせいじゃないと思っている
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