あの頃…
追いかけていた背が

隣を歩くことを許してくれたようで

この瞬間がうれしい

「黒崎君」

海斗と二人、ERまでの道を歩いていると渋い声に呼び止められる

海斗の横から視線を投げれば、そこには白髪のメタボちっくな男性

「永山会長」

お久しぶりです

小さく会釈する海斗の顔から表情が消えた、気がした

思い出すのは、この間尋ねてきた女性を相手にしていた時

あの時も海斗の瞳は、無感動な漆黒になっていた

「この間黒崎医院長にお会いしてね。いや、こうしてみるととてもよく似ているね」

さすが親子だ

顎に生えた白いひげを触りながら納得したように頷く

「元気にしていたのなら何よりです」

そう返した海斗の声に抑揚はない

もともと感動的な話し方をするタイプではないが、かといって言葉に気持ちがないわけでない

と最近思うようになった

でも、今の海斗はわざと感情を消しているようでとても違和感を感じる

そっと見上げる横顔は、すべてを拒絶しているように思えた



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