あの頃…
「もう。小児科と整形外科に行くときは言ってくださいって言ったじゃないですか」

せっかく救命以外のことも学べるチャンスだというのに

「言ったか、そんなこと」

15㎝ほどの身長差が影響して開いてしまう海斗との距離を小走りになって埋める

「言いました!覚えててください」

ついでにいうと

「もう少しゆっくり歩いてくださいよ。女の子隣に居るんですから」

それでなくとも海斗は歩くのが早いのに

言ったとたん、海斗の足が止まる

「どうしたんですか、黒崎先生」

見下ろしてくる漆黒の瞳は、無言で何かを訴えているよう

「どんなに頑張っても女の子、じゃないんじゃないかと思って」

「ちょ!!本当にセクハラですよ、黒崎先生!!って先に行かないで下さい!!」

慌てて追いかける背中は、歩調を緩めてはくれない

整形外科で以前担当していた患者の様子を見た後、海斗が

「ちょっと寄ってくとこあるから」

というものだから

今、ERとは違う場所に向かっている

あまり足を延ばさない内科がある棟のさらに奥ばった場所

階段を下りるとまるで地下倉庫のようになっている小さなスペースに

机やホワイトボード、ソファ、たくさんの段ボールが置かれている
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