あの頃…
「黒崎医院長があそこまで有名だと君も楽だね。引く手は数多だろう」

「そんなことないですよ」

永山会長の声にいやみったらしいものを感じてしるふは眉を寄せる

「うらやましい限りだよ、この病院を黙っていたって継げるんだから。そういえば、桐谷製薬の御嬢さんと近々婚約するなんて言う噂も聞いたが、顔がいいと特だねえ。黙っていても有名会社の御嬢さんが寄ってくるんだから」

永山の言葉に、ひくひくと頬が引きつっているのは、海斗の隣に居るしるふ

どんどん眉が寄っていく

「ちょ…!!!」

勝手なこと言わないでよね!!と叫ぼうとした瞬間、

海斗が持っていたカルテをしるふの顔に叩きつける

素晴らしい反射神経だ

まるでしるふが怒ることを予測していたように

「永山会長、そろそろ学会が始まりますよ」

いたって冷静に、海斗が告げると

「おう、もうそんな時間か。じゃあ、変なスキャンダルだけは気を付けて。せっかくの黒崎病院の名に傷が付いたら大変だからね」

と言い置いて永山が去っていく

「……くろざきせんせい」

恨みのこもった声がカルテに邪魔されてくぐもる

「何するんですか!!」

痛いです!!
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