あの頃…
永山が消えて行った方を睨み付けていると

コンコンと優しくカルテが頭の上でリズムを刻む

怪訝に思って見上げれば、以外にも優しい漆黒の瞳

一気に熱が冷めてしまったのは、そのせい

だって、海斗の、小さくても、笑みを見たのは初めてのような気がしたから

「そのままでいろよ、立花」

「え?」

頭の上に置かれたカルテが少し邪魔だ

「ずっと、そのままでいろ」

そのまま、真っ白なままで

それだけで、いい

「……反則だあ」

カルテがのっていた場所を押さえながら、見つめる背は近いようで遠い

近づきたくて、でも少しそれが怖くて

知ったら、もっともっとはまってしまいそうで、少し怖い

でも、

「……普通に笑えるんじゃない」

向けられた優しげな瞳に、やっぱりもう逃げられないような気がしながら

遠ざかっていく背を追いかけた

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