あの頃…
ぐぬぬ、とうなりながらそっと居住まいを正す

薄くなったカフェラテを口に含んで場を持たす位しか自分には出来ない

隣で、本当に興味がないらしく海斗がリズミカルにパソコンを叩きはじめる

いつも思うが、そのブラインドタッチ、神業だ

「く、ろざき先生は、今日はお休みじゃないんですか」

沈黙は、つらい

「休みだけど」

一度だって止まらない手と、向けられない視線

あっちはこの沈黙を、この状況を本当にどうとも思っていないようだ

なんか、悔しい

自分だけが振り回されているような気がして悔しい

「じゃあ、何をなさってるんでしょうか」

「こないだの学会の報告書」

「…相変わらずお忙しい」

海斗と言えば白衣を着ているか、仮眠室にいるか

時々出張に行っているかで休んでいるという感覚がない

「何を言う。ちゃんと労働基準は守って仕事してるさ」

とか言いつつ、目の前で仕事をしないでほしい

「そんなに仕事ばっかりしてるとあっという間に三十路ですよ」
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