あの頃…
だからどうしてこうも失礼なのだろうか

「医師免許取ってそのまま黒崎病院に勤めるのが癪だったから違うとこにわざわざ就職したんだよ」

まあ、無駄な抵抗だったのだけど

カラン、と溶けた氷が鳴る

「へえ。じゃあ、根本的になんで医者になろうと思ったんですか」

そんなに病院を継ぐのが嫌なら違う職種に就けば周りも少しは諦めたかもしれない

だから本当にどうしてこうも次から次へと

「それを聞くか」

「はい」

真っ直ぐなブラウンの瞳が見つめてきて、数秒の後に小さくため息をつく

答えてしまう自分が一番どうしようもない

「まだ若かったんだよ」

どうにかなると思っていた

たとえ周囲が何と言おうと、どんな視線を向けて来ようと

抵抗していればどうにかなると思っていた

それが無駄な抵抗だということが分かったのは数年経った頃

わかった瞬間、自分の中で何かが崩れた

多分、すべてを諦めた

「まあ、結局自分にはその道しかないんだろうなっていう諦めも多少あったけど」

諦めの中にも理想とするものがあったあの頃は、やっぱりまだ若かったのだと思う
< 78 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop