あの頃…
「なんですか、ここ」

「荒井のサボり場所だ」

「え」

応えた海斗の行く先を見れば、30代後半だろうか、男の医師がソファに横になって顔に雑誌を乗せて寝ていた

「いつまで寝てるんだ、荒井」

顔に乗っている雑誌をよけてやれば、眠そうな瞳が見上げてくる

「…黒崎か」

「こんなところに居るとまた塔矢に怒鳴られるぞ」

さして咎める気のない海斗の声音を知ってか、荒井が笑う

「あれは真面目だからなー。…ところで何しに来たんだ」

新井のそばから離れる海斗を追う様に上半身を起こす

「探し物」

「そうか。なあ、黒崎、噂の研修医とはどうなった。まだ他の課に移ったと聞かないんだが」

一瞬、海斗の手が止まり、荒井に一瞥を向ける

「その噂の研修医の前くらい医者らしくしてほしいもんだな」

その言葉に荒井がぐるりと見渡すように振り返る

目が合うと面白そうに見つめられ、居心地がとても悪い

「おい、黒崎」

「なんだ」

探し物を終えた海斗が手に白い塊を持ってやってくる
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