あの頃…
「本当。毎回意表をついてくれる」

言葉とは裏腹に声は穏やかだ

「もう少し気遣いと愛想が付いてきたら本当に文句ないんですけどねー」

そうつぶやいたのは、きっと照れ隠し

だって、海斗の漆黒の瞳が出逢ったことのない穏やかさで

ああ、黒崎病院の跡取りというしがらみから解放された彼は、

こんなにも違う瞳をしているんだって

病院でもこんな風に穏やかでいて欲しいと

少しでも近づけたらと思った自分が居たから

「毎回、一言多いけどな」

そう切り返してきた海斗は、いつもと同じ隙のない雰囲気で

そのことに思わず笑ってしまった

少しの安堵と心残りを感じながら

「でも、なんで救命だったんですか?脳外とか小児科とかでも黒崎先生なら重宝されましたよ、絶対」

海斗の腕なら脳下の細かな手術だってお手の物だろうし、

小児科の言うことを聞かない子供たちも海斗にかかれば黙ってついてくる

庭で遊んでいる横を通れば元気よく呼び止められるのだから子供は勘がいいな、とよく思っている



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