あの頃…
「それも反抗の表れだ」

そう告げる海斗の瞳は静かだ

「救命は論文がどうのとか臨床がどうのなんて気にしないでただ目の前の患者に集中できる。それだけだ」

少しでも医者という仕事を諦めないために

これ以上失望しないために

救命を選んだ

そこまでして医者でいる意味が果たしてあるのか

何度もそう思って、けれど自分の境遇がそうすることしか出来ないと言っているようで

諦めを増やしながら医者を続けてきたのだ

「なんかやっぱり頭来ますよ、黒崎先生」

そんなにいいセンスを持っていて

けれどそんなに医者という生き方に諦めていて、失望していて

それでいてちゃんと医者なのに

海斗にこんな風に生きるしかないと思わせている周囲が嫌いだ

きっと海斗が居なくなったら誰よりも困るのは自分たちなのに

それに気がつかずにいる彼らが本当に大嫌いだ

「黒崎先生、絶対に負けないで下さいね。あいつらの思う様になんて生きないで下さい」

「待て、お前何に頭に来てるんだ」
< 81 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop