あの頃…

頑固な彼女

「おはよう、立花」

「あ、おはようございます」

塔矢先生

声をかけられ振り返れば、内科医の塔矢がいた

「どう。内科での研修は」

「順調ですよ」

毎日平和すぎて物足りないくらいに

そういうと頭上から塔矢の快活な笑い声が聞こえてきた

「いつもいつも黒崎にどやされてたからなー」

あれを乗り越えたならどこでだってやっていけるよ

「結局最後の最後まで優しくなかったもんなー」

なんていうつぶやきは海斗の前では決して言えない

それでも自分が成長したとここまで実感があるのは、珍しい

達成感も然り

「さっき黒崎先生をお見かけしたんですけど、相変わらずお忙しそうで」

声をかけるのをためらってしまうほど

あの長身はしるふにも気が付かず二階の廊下を通り過ぎて行った

懐かしいような寂しいような不思議な感覚を抱きながら

下の階からその背を見送った

「あいつは忙しくしてることで色々な誘いを断る理由にしてるっていう見解もあるよ」
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