あの頃…
「立花先生」

医局に戻ってカルテの整理をしていると佐藤が戻ってきた

顔を上げれば、

「コーヒーどう?」

と嫌味のない笑顔を向けられる

「もらおうかな」

ありがとう

「といってもインスタントだけどね」

そう言って手渡されたコーヒーカップからはいい香りがする

「佐藤先生は内科の前脳外で研修してたんでしょう。どうだった」

佐藤がしるふの向かい側に腰かけ、つまみのピーナッツを引っ張り出す

「あそこは内科とは全然違ったな。どことなく緊張がずっと続いてる感じ」

ああ、ERと同じか、とコーヒーを飲みながら思う

「立花先生は?ER、忙しかった?」

「忙しかったけどやりがいもあったし、学ぶこともたくさんあったかな」

思い出すのはあの低い声とずっと前をいく背中

そして振り下ろされるカルテ

ほんの少しの期間だったけれどとても密で、とても色鮮やかな日々だ

思い返せば初めのただ反抗していた頃よりもずっと海斗に近づけたような気がする

もちろん技術面ではまだまだだけれど
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