あの頃…

意味が分からず首をかしげるしるふに笑顔を返して

「まあ、こっちの話。とにかく何かあったら遠慮なく自分は黒崎海斗にかわいがられていた研修医ですって公言していいよ」

それでもめげないなら本当にあいつが出ていくだろうからね

「と、立花先生にもお願いを」

そう言って自分の机から茶封筒を取ってくる

「これ、黒崎に持って行ってくれる。立花先生はきっとどの課も欲しがるねって笑ってたって言っておいて」

そう言って笑いながら医局を出ていく

見下ろした茶封筒をそっと握りしめたのは、逢える、それだけで少しうれしさを覚えたから


ERは珍しく平穏な時を迎えていたようだ

医局のドアを開けると懐かしい神宮寺の瞳がしるふを捕える

「あら。立花先生、ご無沙汰ねえ。お元気?」

「はい。塔矢先生にお使いを頼まれまして」

黒崎先生は

見回してもその姿はない

彼の淡泊さをそのまま体現した机もパソコンが付いたまま放置されている

「黒崎先生なら回診に行ってるわよ。そのうち戻ってくるから座って待ってたら」