紅の約束

序章

豊島区 池袋。
池袋西口公園前 深夜２時。
空は漆黒に染まり、薄ぐらい街灯が足場を照らしている。
噴水の水は静かに揺れ、月を映している。
さすがにこの時間帯では朝、昼と賑わっていた公園も静まり返り、ただゆっくりと生暖かい風が通り抜けるだけだった。
電車も終電を迎え、道路には車が一台も走っていない。
豊島区 池袋には、全ての人間が家に戻り、心地良い眠りについているのだ。


−−−−彼等を除いては。


一瞬 鋭い風が噴水の水を揺らした。
そして、誰もいなかった公園に、一人の男が入り込んできた。
男は高価なスーツを身にまとい、大きなトランクを抱え、膝を落とした。
「ハァ…ハァ…」
ザァァァッ…
再び、鋭い風が吹いた。
その風の音に、男はヒッ、と体を震わせた。

…男の前に現れたのは…一人の少年だった。

暗闇でも目立つ、少し赤のメッシュが入った茶色の髪は鎖骨まで伸びている。
鋭い切れ長の瞳は、見る物全てを虜にするような美しい物だった。
男は少年の姿を確認すると、慌てて土下座の体制をとった。
「頼む！金はいくらでもやるから…！命だけは助けてくれ！」
「…任務成功の為だ。貴様には死んでもらう」
少年は男の首を掴み上げると、手に力をこめ、爪を食い込ませた。
「待ってくれ…！た…助けて…！！」
突然、首に食い込んでいた爪が物凄い勢いで伸び、男の首を突き刺した。
見事に伸びた爪は男の首を貫通し、紅く光る血を静かに落とした。
少年は男の首から爪を無理矢理引き抜くと、男の首を噴水へ投げ捨てた。
噴水の水は見るうちに真っ赤に染まり、血の池へと変わった。

少年は、大きめのパーカーの中から携帯を取りだし、画面を軽く開いた。
ディスプレイには、紅い文字で、『コードナンバー04 任務成功』と表示されていた。

「もうこのゲームを始めて…一年が経つのか…」

池袋西口公園に取り残された少年、守零（スレイ）は、一人星のない夜空を見上げた。