赤い結い紐

涸れた涙

「ごめんなさい、急に呼び出したりして」

薄暗いバーカウンターの一番端の席に座っていた千珠が、歩いてきた武に声をかける。

「ああ、別にかまわないけど。何か用?」

この前とまったく同じ椅子に腰をおろして武は訊いた。

目で合図するようにマスターを見ると、

彼はなれた動作で小さく頷いて、アイスピックで氷を砕き始めた。

「まだ、話したいことがあって。この前は、気がついたらいなくなってたから」

「そう。で、なんなの話って?」

「なんで、いつもそんな悲しそうな目をしてるの?」

武の目を覗き込むようにして千珠が問いかける。


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