赤い結い紐
「その人は見つかったんですか?」

千珠は吸い込まれるように二つの瞳を見つめ、訊いてみた。

「イヤ、もう見つけられないかもしれない」

なにかを思い出したように、武が顔をそらした。

「どうしてですか? 

黒髪とホクロが左胸の下にあることしか思い出せないからですか?」

「一緒に住んでる奴に、この前言われたよ。

『顔も忘れちまってるのに、本当に左胸の下にホクロはあったのか?』って。

『そう思い込んでいるだけで、別の場所にあったんじゃないのか?』ってな」

「でも、左胸の下にあったんじゃないんですか?」

問いかける千珠に、ゆっくりと武が首を振る。


< 157 / 292 >

この作品をシェア

pagetop