赤い結い紐
「わからない。思い出せないんだよ」

「そんな……」

「笑っちまうだろ?

俺は何のために四百年も生きてきたんだ?」

カウンターの上で握り締められた両手には指が食い込み、

力が入りすぎて白くうっ血していた。

それでも武の手のひらから血が流れることはない。

だから武の悲しみは流れる術(すべ)を失い、

身体の中でワインのようにじっと熟成(じゅくせい)を続けていた。

千珠はその震える拳を、自分の手のひらでそっと上から包み込んだ。

そして微笑み、やさしくさすってやる。


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