赤い結い紐
武はいつものように完全にシカトを決め込み、ポケットからタバコの箱を出して一本に火をつけた。

千華が頬を両手でさすりながら、冷蔵庫の中からウーロン茶のペットボトルを出して渡してくれた。

「おやおや、まるで武の奥さんみたいだねえ」

からかうようにレイラが言った。

そのおかげで千華の頬をさするスピードが加速する。

「言ってろ」

武は短く呟いて、千華に目配(めくば)せをして玄関に向かった。

急いであとを追う千華に、レイラがトドメの一撃を投げつける。

「今日の夕飯は勝手に作るから、心配しなくてもいいからね」

どう返事をしていいのかわからずに立ち尽くす千華の手を引き、武はため息をついてドアを潜り抜けた。

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