赤い結い紐
「ねえ、何ふざけてんのよ。お客さんいるんだけど」

呆れたように由加里が言うと、千珠は口をパクパクと動かして首を振った。

「なに?」

由加里がいつもの癖で眉間にしわを寄せて訊くと、千珠が店内の男を指差した。

その瞬間、由加里の脳に信号が走る。

「万引き?」

千珠が違うと言うように、首をブンブンと振り回す。

「じゃあ、なんなのよ?」

「来た……」

「なにが?」

「武」

「うそ? どこ?」

由加里が回りに向けようとする目を遮(さえぎ)り、千珠が指をまっすぐに伸ばして呟いた。

「あそこ……」

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