赤い結い紐
千珠はMDを渡して、店までの道を歩いていた。

店の前では由加里が苦笑いしながら立っている。

はじめのうちは睨むように見ていたが、瞬きをしたら涙が出てしまった。

「あー、ごめんってば」

由加里が肩を抱いてくる。

「絶対、嫌われたよ……」

「いや……うん、大丈夫だよ」

「なんでそんなこと分かるのよ?」

由加里の手を振り払い、バックルームに向かいながら千珠が訊ねると、

「いや、なんとなく……」

後ろをついてきながら、由加里が答える。

千珠がパイプ椅子に座り、ティッシュで鼻をかんでいると、少し考えてから由加里が言った。

「でも、ひとつだけ確実なことがある」

「なによ?」

「あのちびには、確実に嫌われた」

そう言って由加里は不敵に微笑んだ。
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