赤い結い紐
とりあえずタオルを手渡してはみたが、

彼女は濡れた身体を拭くでもなく、髪の毛を拭くでもなく、ただ黙って真っ白なタオルを握り締めていた。

武はしばらくその様子を眺めていたのだが、いっこうに白いタオルは動くことなく、手の中でしわを刻んでいた。

仕方なくタオルをもう一枚取りに行き、雫を垂らし続ける黒髪を両手で拭いてやった。

少し乱暴だったにもかかわらず、彼女は一言も口を開かない。

ましてや武を見ることさえもしなかった。

開かれた二つの瞳は、部屋の壁を通して他の何かを見ているようだった。

本当はシャワーにでも入れてやれればいいのだが、まだレイラが使っているのでそうもいかない。

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