赤い結い紐
頭の中で、ピアノが最後の鍵盤を押さえた。

ほんの少しの沈黙が訪れて、再び最初の鍵盤がひかれる。

千華に頼んで、繰り返しこの曲が流れるようにセットしてもらっていた。

たった五分足らずの音楽を、繰り返し一時間以上は聴いていた。

武はタバコをもう一本吸ってから電源をとめて、灰皿の横に置いてあった名刺をつかんで部屋を出た。

階段を降りていると、千華の部屋からもピアノの音が聴こえてきた。

玄関に向かう間にジンと目があったので、

「ちょっと出かけてくる」

そう言付けを頼んで、ドアの向うに足を踏み出した。

< 225 / 292 >

この作品をシェア

pagetop