赤い結い紐
近くの公衆電話までは、歩いて一分ほどだった。

迷子になったときの為にと、レイラからもらったテレホンカードが十枚以上残っていた。

緑色の受話器を上げて、犬の写真が印刷されたテレホンカードを溝の中に差し入れる。

カードは音もなく機械の中に吸い込まれていった。

武はポケットから名刺を出して、何度も確認をしながら11桁の数字を順番に押す。

最後の数字を押してから、数秒で回線が繋がる。

「もしもし……」

受話器越しに、緊張した声が聞こえてきた。

「ああ、俺。武だけど」

「なんだ、武か。番号通知されないから誰かと思ったよ」

ほっとしたように千珠が笑った。

「番号通知ってなんだ?」

「うん、なんでもない。気にしないで」

千珠が言った。

「ああ」

武が答える。

そして沈黙が訪れた。

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