赤い結い紐
さっきまで聴いていた沈黙だと、そろそろピアノが流れ出す頃だった。

武はふとそんなことを思い、新たな音を待っていた。

「MD、聴いてくれた?」

千珠が最初の鍵盤を押さえた。

「ああ、聴いたよ」

「どうだった? 気にいってくれた?」

「ああ、気がついたら涙が出てきた」

「そう。わたしも泣いたんだ、あれ聴いて。

だから武も泣けたらなぁ、と思ったんだけど、良かった」

千珠が受話器の向うで、そっとため息をついた。

それはチェロのようなやさしいため息だった。

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