赤い結い紐
「見たら、戻れなくなるか……」

千華は瞼を閉じて、小さく呟いた。

「あんな約束しなきゃよかった……」

千華は桐の箱の蓋を閉めて、元あった場所に戻した。

開かれた瞳からは、音もなく涙が流れる。

部屋を出ようとしてドアに向かうと、真っ赤なウサギの瞳に一滴の雫が落ちた。

その雫は、まるでウサギが流す涙のように、その場所からまた流れ落ちる。

千華は部屋に戻って電気をつけた。

パチン、という音とともに天井に灯りがともる。

二匹のウサギを連れてとぼとぼと部屋の中を歩き、窓から外を眺めた。

見える場所には誰もいなかった。

しばらくぼんやりとしてから、思い出したように手鏡を手に取り、ベッドの上に座った。

ところどころ湿ったTシャツを首までめくりあげて、左胸の下を鏡に写す。

「やっぱり無いよね……」

口に出してしまうと、再び涙が溢れてきた。

それでも諦めきれないように、鏡の角度を変えて何度も探した。

胸の下の、あるはずの無いホクロを……


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