赤い結い紐
武は何も言わなかった。

ただ静かに呼吸だけを続けていた。

部屋中に溜まった沈黙を飲み込むように、大きく息を吸ってからジンが言った。

「あいつらの顔がな、消えないんだよ。別に忘れたいわけじゃない。

でもな、最後に見た顔には血がいっぱいついていた」

ジンが苦しそうに目をつぶる。

「でもな、どうせなら笑った顔が見たいんだよ、おれは……」

「そうだな」

「なあ、なんでだ? 俺はどうすればいいんだ?」

武の服を握り締めながらジンが言った。

「忘れられないんだよ……」

ジンの二つの目からは涙が流れていた。

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