赤い結い紐
「あんたの頭は空っぽなのかい?」

そう言って、扇をすっと滑らせた。

ふわっとした風と共に、ビャクダンの香りが鼻先をかすめる。

そして、頭の中に映像が浮かんだ。


小さな自分が誰か、男に抱かれている。

そしてその顔には……。


武がはっとして左の頬を押さえると、レイラが満足そうに笑って頷いた。

「さてと、あたしも行こうかねぇ」

「待ってくれ。こいつは、千珠が千夜なのか?」

倒れてピクリとも動かない千珠を指差して武が訊くと、

「さぁねぇ、あたしは知らないよ」

とぼけたようにレイラが答えた。

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