赤い結い紐
千華は思い出したように「うん」と呟いて男の手を振り払うと、

男のスネに蹴りを入れて小走りに駆けてきた。

アロハシャツの男は蹴られた足が痛かったわけではないだろうが、

ペタンと地べたに尻を付いて見送ってくれた。

武は千華に腕をつかまれたまま来た道を戻り、

まだ右手に傘を持っていたことに気づくと、後ろを振り向いて傘を思い切り投げつけた。

いまだ鼻を押さえてアスファルトに張り付いていた男達が、

驚いたように「ヒッ」と短く声をあげた。

そして武は何事もなかったかのように、

黙ったままの千華を連れて家路に着いた。

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