赤い結い紐
「やめて、この人は何もしてないじゃない!」

木でできた小屋の入り口で、女が声を張り上げている。

女が身体いっぱいに手を伸ばして庇う小屋の中には、薄暗い中、うなだれて座り込む武の姿があった。

「うるさい! 気味が悪いんだよ。

一年近くこの村にいるのに、そいつ髪も髭(ひげ)も伸びないし、おまけにケガもしないそうじゃないか。 

きっと妖かしの類(たぐい)に決まっている。

生かしておいたら、そのうち村の者を襲うかもしれん」

大勢の村人の代表と思われる男が、武を指差して吐き捨てるように言った。

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