赤い結い紐
水晶球の中の映像が薄れていき、新しいものが少しずつ映し出されてきた。

映画の冒頭のように、画面いっぱいに海が現れる。

その海を背景にして、武がひとり歩いていた。

砂浜に人はなく、ぼろぼろの船がひっそりと浮かび、波にもてあそばれていた。

武は横に広がる海にも、漣(さざなみ)を立てて打ち寄せる波にさえカケラほどの関心も示さずに、

ただ足元だけを見つめて歩き続けていた。

少しすると、前方から小さな子供が二人ほど駆けてきて、

武に訝(いぶか)しげな視線を投げかけて逃げるように横を走り抜けていった。


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