あたしの証【完結】
「ありがとうございました。」
無表情で愛想もなく釣銭を渡す。
あたしのバイトは最寄り駅から隣の本屋。
本屋なら愛想なくても大丈夫かなって。
正直、接客業は嫌い。
でも、人と触れ合わないとあたしは本当に孤独なんじゃないかって。
そう思ってしまうから。
また目の前に人影が見える。
客か。
なのに。
「木下さん」
いきなりあたしの名字を呼ばれ、はっと顔をあげる。
「木下さんだよね?」
「……はい?」
目の前にいたのは、知らない男の人。
誰だろう?
「覚えてない?」
「………え、と」
「だよね」
その男はあたしの反応に困ったように笑う。
そんな笑い方をする彼は一度見たら忘れられないような人。
整った顔をしてて、髪の毛は金髪?白?ってな感じで。
釣り目がちな目がちょっと怖くも感じる。
誰だろ。
こんな印象的な人、一度見たら忘れられない…と思う。
「俺、戸川夏樹」
「と…がわなつき?」
「中学校一緒だったじゃん」
そう言われて、あたしの中で何かが繋がった。
もしかして。
「なつお?」
「そ!」
「ええええええええ????」
あまりにも大きい声を出してしまった自分にも驚く。
後ろで店長からゴホンと咳き込む声がして、肩をすくめた。
「あ、ごめん、仕事中だったね。じゃ、連絡して」
そう、言いながら彼は近くにあったペンであたしの手をとってすらすらと手の甲に携帯番号を書いた。