あたしの証【完結】
そこは。
一軒の喫茶店。


「ここで大丈夫?」

「あ、はい」


あたしはお釣りを受け取ると車を後にした。



中に入って、ウエイトレスに案内され席に着く。

カラン。


グラスの中の氷が鳴る。
ぼーっとしてそれを見ると、ゆうやがやって来た。


「お待たせ」

ゆうやは着替えたのか、さっき出かけた時の恰好をしていた。


「あ、全然…。
お疲れ様」

「…ああ」

「りなさん、待ってるかな」

「そうだろうな」

「……」

「帰ろうか」

「うん」



あたしとゆうやは何も注文しないまま、喫茶店を出る。


「なんか、頼んでるかと思った」

「だって、あたしのお金じゃないもん」

「…別にいいのに」


近くのパーキングに停めてあった車に乗り込みながらあたしは今の気持ちを話す。


「ゆうや。あたし、なんかバイトしようと思って」

「は?」

「だから、ゆうやに出しっぱなしにしてもらうの嫌だから」

「…いいっつうのに」

「でも、きっとさっきみたくあたしは遠慮してお金使わなかったりする」

「……」

「接客業は怖いから…なんか、裏方探すけど」

「……わかった」


静かにそう返事をした、ゆうやの横顔からは感情までは読み取れなかった。
でも、あたしはゆうやにいつまでも甘えてるわけにはいかないんだ。



今日、ゆうやが働いてるとこを見て。
ゆうやの大変さとか、苛酷さとか。
なんか、垣間見た気がするから。


あたしは逃げたらいけないんだ。
過去からも、現在からも。
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