あたしの証【完結】
なつおに連絡しないで、しばらく経った頃。
あたしの手の甲の番号ももちろん消え去り、あたしの記憶からも消え去っていた。



普通の毎日だった。

そこへ。
また貴方が訪れる。



本を出すお客さんにいつものように無愛想にレジを打ち、顔を見ずに言う。



「580円です」

1000円を差し出すその手。


「1000円からお預かり…」


その手はお札の端を持って離さない。

は??なんだこいつ。そう、思って顔を上げると

「やっと気付いた」

そう、にっこり笑うなつおがいた。



「あ」

「何で電話しないの」

「あ…いや、なんとなく」

「何それ」

「…あー」


言い訳が全く浮かばずあたしは困惑する。
だって話す、理由ないじゃん。
話したい事もないし。


「じゃ、今日何時に終わる?」

「は?」

「迎えくるからさ。何時?」

「…8時」

「わかった。じゃ、お釣りちょーだい」

「420円です…」

「ありがと。それじゃ、また」


お釣りと、本を受け取ると彼はまた颯爽とあたしの前から去って行く。


少し今の出来事が理解できない。
…えと、誘われた?あたし。


ちょ、ちょっと待て。
無理。
意味わからない。
だから、なんも話すことなんてないってば。
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