Bloom ─ブルーム─
「里花ちゃんに?」

「友里亜達と合流したって言ってたから多分友里亜に私の番号を聞いたんだと思うけど、なんか、健さんらしくなかった感じがして。苛立ってたみたいな。気のせいかな」

「連絡つかなくて怒ってるのかも。ごめん、ちょっと急いでもいい?」

「はい」

私達は小走りで改札へ向かうと、発車寸前だった地下鉄に飛び乗った。

ここからライブハウスのある最寄りの駅まで約20分。

空いてる車内で、大樹先輩は私を乗降口付近のシートに誘導すると、その隣に腰を下ろした。

「……」

「……」

ホッと一息つくと、心臓の音が運動後のドキドキから緊張のトクントクンに、また入れ替わる。

「久々に走っちゃった」

久々でも何でもないけど。

もしこのトクントクンが聞こえてるなら、走ったせいだと思ってもらう為に、そんなことを口にしてみる。

「俺も」

先輩は「夏休みは体育ないからね」ってあっさり乗っかってくれた。

向かい側の窓には、並んで座る私達の姿が映ってる。

不思議。

こうして、私服姿で一緒に地下鉄乗ってるなんて。しかも2人きりで。

結局悩んだ末、私はワンピースにレギンスという何の変哲もない格好にしてしまったんだけど、大丈夫かな。

悩んで悩んでたくさんファッションショー的なものを部屋で繰り広げたんだけど。

鏡の中には、無理して背伸びしてる自分しかいないと気づいた。

そんな自分で先輩の歌を真っ直ぐ聴くことなんて出来ない気がしたんだ。

それで、いつもと変わらない、等身大の私で来ることに決めた。

けど、みんなおシャレしてくるのかな。
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